ボーイング787のリチウムバッテリーのことでいろいろなニュースや記事を読んだり見たりしているうちになんだか不思議に思うことがあるので少し自分なりに調べてみたところ、よくわからないことが多く出てきました。この13年間おもにラジコン飛行機用と最近は非常用蓄電装置用にリチウムバッテリーを扱ってきたので多少は知るところもあるので興味を持った次第です。私の理解に誤りや誤解が多々あるかと思いますのでご指摘やコメントをいただければ幸いです。
ラジコン飛行機用と書くと何かおもちゃのようなイメージで大したものではないと思われるでしょうが、実はラジコン界ではリチウムバッテリーの性能を超えて、それもメーカーの指定する保証値を全く無視した激しい使い方をし、ある意味では実験的(Experimenntal)な使い方であり、あらゆる危険とリスクの中でそれもどんな使い方をされるかわからないただラジコンが好きだという無垢な一般素人の方を実験台に壮大な使用テストを行ってきているのです。いわば一種の人体実験にも似たような状況がリチウムバッテリーとラジコン機を使って行われているのです。だからこの13年間おそらくありとあらゆる事故に遭遇しているのが私たちラジコン愛好者では無かろうかといっても過言ではないと思っています。その意味で体を張って時代の先端製品をテストしてきたということになりますね。飛行機やヘリが空中で燃えたなどというのはやさしい話で、充電中に自分の車や家を全焼したり、林の中に機体が墜落してリチウムバッテリーが発火し、森全体を焼いてしまったなどその事故件数たるや恐ろしいものがあります。一時期、それゆえに規制がかかるのではないかと危惧された時期もありましたが、それだからこそラジコン用リチウムバッテリーメーカー、充電器メーカーそして販売する我々も含めてより安全なリチウムバッテリーの製造、そして安全な使い方の啓もうに努めることとなり、この5-6年で安全面も含めてラジコン用リチウムバッテリーが格段の進歩を見ることになったとおもいます。
10年前まではラジコン用リチウムイオン電池と言えば、正極にコバルト系の化合物を使い、電解液は水のようにタラタラしたものを使っていましたのですぐに漏れたり衝撃に弱かったり、また充電器もBMUやバランサー回路を持っていないものだったため、充電中に膨れて過激に発火したり、セルバランスが崩れて膨らんだり火を噴いたりしていました。この危ない時期を経て正極材料はニッケル系やマンガン系の化合物に変更され、さらに電解液も漏れたりすることのないゲル状のものに置き換えられ、さらに充電器には専用のセルバランス回路を標準で内蔵、簡易なBMUを搭載するものまで出てきました。これで劇的に発火などの事故はなくなったのですが、それでもさらに安全性が様々な面から見直され正極材料にニッケル、コバルト、マンガンの化合物(NCM)を使ったり、さらにそれでも納得がいかず若干重量がかさむもののリン酸鉄系の化合物を正極に用いるようになってきました。いわゆるNCM系リチウムポリマーバッテリーだったりリチウムフェライト系ポリマーバッテリーと呼ばれるものがラジコン界に普及するようになり極端に事故件数は減りました。また携帯電話の爆発的な普及のおかげで価格自体も下がりさらにテストする人たちが増えてきました。携帯電話用リチウム電池もやはり当初いろいろな事故に出会いこれも無垢な一般素人の耳元で危ない実験を繰り返してきたおかげかもしれません。
正極の材料の変化だけみても初期型のコバルト系(ソニーのPCが発火した事件はこれだったようにおもいます)、それからニッケルやマンガン系(これは日産のリーフに使われているらしいです)そしてNCM混合系と呼ばれ上記3つから見ればかなり発火の可能性の低いものへと推移していることが分かります。もちろん産業界では現在主流となりつつあるリン酸鉄系のリチウムポリマーバッテリーは、釘をさしてもショートせず、短絡させても発火せず、つぶしても爆発せず、200度C以上の高温の中へ放置しても損傷せず、過充電、過放電でも発火しない極めて安全なバッテリーなのです。下の写真はリチウムフェライトバッテリーに5寸釘を打ち込んで24時間放置した後の状態です。通常のリチウムイオンバッテリーならショートして火を吹いているところです。
ところでこれらの安全性が高いといわれるラジコン用リチウムバッテリーについてももちろん航空運送上は極めて厳しい法的規制を受けます。IATAの規制でもエネルギー量100Whを超える組電池(いわゆるバッテリーパック)に対してはUN9の危険物扱いとなり、厳しい保護容器基準やドキュメントが要求され、総重量も5kg以内に収めなけれならず事実上輸送できないあるいはできたとしてもコストが合わない状況になっています。したがって100 Whに収めるべくスプリットパックなどの方法を採用しています。
ラジコン機用リチウムバッテリーについてですらこのように厳しいことをしているのですからましてやたくさんの乗客が搭乗して長い時間飛行する787にはこれ以上安全という言葉が見つからないくらいの安全なバッテリーが搭載されているものと思いきや・・・う〜〜〜〜ん、やや違うように見えるのですがどうしたことになっているのでしょうか?
実際787に搭載されたリチウムバッテリーについてですが(株)ジーエス・ユアサテクノロジー社が設計製造したもので、型式はLVP65という3.7V65Ahのセルのようです。これを8セル直列接続(いわゆる8S1Pです)して定常電圧29.6V65Ahの組電池として787に搭載しているとのことです。エネルギー量は29.6*65=1924Wh,満充電時のエネルギー量は2184Whにもなります。
100WhでもIATAは規制をかけているのに2000Whのエネルギーを持つリチウムバッテリーパックが787に積まれていることになります。当然UN Class9扱いにするとともにUN3481を適用して重量規制しています。UN3481とは,機体に搭載できるバッテリーパックの総重量です。旅客機用は5kg以下、貨物機用は35kg以下となっています。ところでこのLVP65-8という8セル65Ahのパック重量はいくらなのでしょうか?実はバッテリーパックだけで22.4kgもあるのです。貨物機用ということなのでしょうか?787に搭乗するのは人間でなく貨物だということなのでしょうか?まさかと思いながらもなかなか不思議なところです。(今年の1月1日からはさらに貨物機の場合も35kgから5lgまでと厳しくなったようです。)
LVP65のMSDS(Material Safety Data Sheet-No.P09L-5002 December 25 2009)を発見したのでそれを見て驚きました。Cathode(正極)にはラジコン界で10年前に爆発発火を繰り返し経験した苦い思い出のLithium-Cobalt-Dioxideと書かれています。電解液は明らかではないのですが有機溶剤ー非水性液体と記載されています。どうもポリマーとうたっていないところをみるとゲル状ではなくなにか柔らかい液体かもしれません。抽象的な表現なので不明です。しかしどうしてボーイング社は発火性が大きく今やラジコン機にも使っていないコバルト系のリチウムイオンバッテリーをたくさんの乗客を乗せる航空機に採用したのでしょうか、この点はかなり理解に苦しみます。この発火性の高いリチウムバッテリーをいくら頑丈なケースで囲んだところでどういうもんなんでしょうかと素人ながら素朴な疑問を持ってしまいました。
http://www.gsyuasa-lp.com/download/file/fid/112
さらにまたこのバッテリーの開発に関してテストを行い検証した内容が(株)ジーエス・ユアサテクノロジー社からテクニカルレポートとしてでていますので見てください。
http://www.gs-yuasa.com/jp/technic/vol7/pdf/007_01_014.pdf
この内容を読んでゆくとほとんど厳しい検証はしておらず、充電も最大50A,放電も最大700Aで行っているだけでした。ということは充電は1C以下、放電は10C程度です。これではどのバッテリーもエマージェンシー下での素顔というか正体を現すことは無いような気がします。ラジコン界では10C充電はおろかまた放電に至っては140C放電などを行ってバッテリーの安全性を確認しています。10CでLVP65を充電するということは650Aで充電することであり、140Cで放電するということはこの場合、9100Aで放電するということです。50Aでの充電や700Aでの放電では、過電流が流れたなどとは言えないわけで、バッテリーに対しては厳しいテストではなかったと思ってしまうのですが、どんなもんでしょうか?また短絡や衝撃、耐熱などのテストが行われた内容が発見されていないのでわかりませんが、異常な状態での本当の素性がバレないまま、まんまと採用試験を通ってしまったということになります。
さらにこのレポートを読んでゆくとバッテリー保護回路BMU(関東航空計器製)を装備しさらにバランサー機能を備えているとなっていますが、ラジコンでは当たり前のことです。
その上に航空機用電池に要求される高い信頼性を実現するために次のような機能を追加したとなっています。
(1)組電池のいかなる故障も検知する自己診断機能
(2)過充電などの異常モードに対する独立二重保護機能
(3)コンタクタを用いた組電池自身による異常充電遮断機能
残念ながら今回はどれも機能しなかったようです。さらに残念なことにこれだけの機能を考えるときに使用中のデータをどこかに記録するログ機能がなかったということです。ラジコンでも現在は飛行中の機体からバッテリーの電圧や電流値の変化がリアルタイムで地上で操縦している人に送られるようになっており、また記録することもできるようになっています。
今となってはすべてが燃えてしまいデータも残っておらず組み込んだ数々の機能は全く働かず、そのため原因が解明できず、でもこれからはバッテリーはそのままにとにかくがっちり梱包して火が出たら煙が充満しないようにしますから大丈夫ですよなんて、これはまずいかもしれないですよ。リチウムバッテリーの爆発を見た人なら絶対そんな煙のレベルですむことじゃないと簡単に想像できるはずです。ぜひバッテリー自体の根本からの仕様変更を願ってやみません。素人の願いに耳を傾けている余裕はないかもしれませんが、ここはひとつ一度でいいので再考していただけないものでしょうか?
10年前まではラジコン用リチウムイオン電池と言えば、正極にコバルト系の化合物を使い、電解液は水のようにタラタラしたものを使っていましたのですぐに漏れたり衝撃に弱かったり、また充電器もBMUやバランサー回路を持っていないものだったため、充電中に膨れて過激に発火したり、セルバランスが崩れて膨らんだり火を噴いたりしていました。この危ない時期を経て正極材料はニッケル系やマンガン系の化合物に変更され、さらに電解液も漏れたりすることのないゲル状のものに置き換えられ、さらに充電器には専用のセルバランス回路を標準で内蔵、簡易なBMUを搭載するものまで出てきました。これで劇的に発火などの事故はなくなったのですが、それでもさらに安全性が様々な面から見直され正極材料にニッケル、コバルト、マンガンの化合物(NCM)を使ったり、さらにそれでも納得がいかず若干重量がかさむもののリン酸鉄系の化合物を正極に用いるようになってきました。いわゆるNCM系リチウムポリマーバッテリーだったりリチウムフェライト系ポリマーバッテリーと呼ばれるものがラジコン界に普及するようになり極端に事故件数は減りました。また携帯電話の爆発的な普及のおかげで価格自体も下がりさらにテストする人たちが増えてきました。携帯電話用リチウム電池もやはり当初いろいろな事故に出会いこれも無垢な一般素人の耳元で危ない実験を繰り返してきたおかげかもしれません。
正極の材料の変化だけみても初期型のコバルト系(ソニーのPCが発火した事件はこれだったようにおもいます)、それからニッケルやマンガン系(これは日産のリーフに使われているらしいです)そしてNCM混合系と呼ばれ上記3つから見ればかなり発火の可能性の低いものへと推移していることが分かります。もちろん産業界では現在主流となりつつあるリン酸鉄系のリチウムポリマーバッテリーは、釘をさしてもショートせず、短絡させても発火せず、つぶしても爆発せず、200度C以上の高温の中へ放置しても損傷せず、過充電、過放電でも発火しない極めて安全なバッテリーなのです。下の写真はリチウムフェライトバッテリーに5寸釘を打ち込んで24時間放置した後の状態です。通常のリチウムイオンバッテリーならショートして火を吹いているところです。
ところでこれらの安全性が高いといわれるラジコン用リチウムバッテリーについてももちろん航空運送上は極めて厳しい法的規制を受けます。IATAの規制でもエネルギー量100Whを超える組電池(いわゆるバッテリーパック)に対してはUN9の危険物扱いとなり、厳しい保護容器基準やドキュメントが要求され、総重量も5kg以内に収めなけれならず事実上輸送できないあるいはできたとしてもコストが合わない状況になっています。したがって100 Whに収めるべくスプリットパックなどの方法を採用しています。
ラジコン機用リチウムバッテリーについてですらこのように厳しいことをしているのですからましてやたくさんの乗客が搭乗して長い時間飛行する787にはこれ以上安全という言葉が見つからないくらいの安全なバッテリーが搭載されているものと思いきや・・・う〜〜〜〜ん、やや違うように見えるのですがどうしたことになっているのでしょうか?
実際787に搭載されたリチウムバッテリーについてですが(株)ジーエス・ユアサテクノロジー社が設計製造したもので、型式はLVP65という3.7V65Ahのセルのようです。これを8セル直列接続(いわゆる8S1Pです)して定常電圧29.6V65Ahの組電池として787に搭載しているとのことです。エネルギー量は29.6*65=1924Wh,満充電時のエネルギー量は2184Whにもなります。
100WhでもIATAは規制をかけているのに2000Whのエネルギーを持つリチウムバッテリーパックが787に積まれていることになります。当然UN Class9扱いにするとともにUN3481を適用して重量規制しています。UN3481とは,機体に搭載できるバッテリーパックの総重量です。旅客機用は5kg以下、貨物機用は35kg以下となっています。ところでこのLVP65-8という8セル65Ahのパック重量はいくらなのでしょうか?実はバッテリーパックだけで22.4kgもあるのです。貨物機用ということなのでしょうか?787に搭乗するのは人間でなく貨物だということなのでしょうか?まさかと思いながらもなかなか不思議なところです。(今年の1月1日からはさらに貨物機の場合も35kgから5lgまでと厳しくなったようです。)
LVP65のMSDS(Material Safety Data Sheet-No.P09L-5002 December 25 2009)を発見したのでそれを見て驚きました。Cathode(正極)にはラジコン界で10年前に爆発発火を繰り返し経験した苦い思い出のLithium-Cobalt-Dioxideと書かれています。電解液は明らかではないのですが有機溶剤ー非水性液体と記載されています。どうもポリマーとうたっていないところをみるとゲル状ではなくなにか柔らかい液体かもしれません。抽象的な表現なので不明です。しかしどうしてボーイング社は発火性が大きく今やラジコン機にも使っていないコバルト系のリチウムイオンバッテリーをたくさんの乗客を乗せる航空機に採用したのでしょうか、この点はかなり理解に苦しみます。この発火性の高いリチウムバッテリーをいくら頑丈なケースで囲んだところでどういうもんなんでしょうかと素人ながら素朴な疑問を持ってしまいました。
http://www.gsyuasa-lp.com/download/file/fid/112
さらにまたこのバッテリーの開発に関してテストを行い検証した内容が(株)ジーエス・ユアサテクノロジー社からテクニカルレポートとしてでていますので見てください。
http://www.gs-yuasa.com/jp/technic/vol7/pdf/007_01_014.pdf
この内容を読んでゆくとほとんど厳しい検証はしておらず、充電も最大50A,放電も最大700Aで行っているだけでした。ということは充電は1C以下、放電は10C程度です。これではどのバッテリーもエマージェンシー下での素顔というか正体を現すことは無いような気がします。ラジコン界では10C充電はおろかまた放電に至っては140C放電などを行ってバッテリーの安全性を確認しています。10CでLVP65を充電するということは650Aで充電することであり、140Cで放電するということはこの場合、9100Aで放電するということです。50Aでの充電や700Aでの放電では、過電流が流れたなどとは言えないわけで、バッテリーに対しては厳しいテストではなかったと思ってしまうのですが、どんなもんでしょうか?また短絡や衝撃、耐熱などのテストが行われた内容が発見されていないのでわかりませんが、異常な状態での本当の素性がバレないまま、まんまと採用試験を通ってしまったということになります。
さらにこのレポートを読んでゆくとバッテリー保護回路BMU(関東航空計器製)を装備しさらにバランサー機能を備えているとなっていますが、ラジコンでは当たり前のことです。
その上に航空機用電池に要求される高い信頼性を実現するために次のような機能を追加したとなっています。
(1)組電池のいかなる故障も検知する自己診断機能
(2)過充電などの異常モードに対する独立二重保護機能
(3)コンタクタを用いた組電池自身による異常充電遮断機能
残念ながら今回はどれも機能しなかったようです。さらに残念なことにこれだけの機能を考えるときに使用中のデータをどこかに記録するログ機能がなかったということです。ラジコンでも現在は飛行中の機体からバッテリーの電圧や電流値の変化がリアルタイムで地上で操縦している人に送られるようになっており、また記録することもできるようになっています。
今となってはすべてが燃えてしまいデータも残っておらず組み込んだ数々の機能は全く働かず、そのため原因が解明できず、でもこれからはバッテリーはそのままにとにかくがっちり梱包して火が出たら煙が充満しないようにしますから大丈夫ですよなんて、これはまずいかもしれないですよ。リチウムバッテリーの爆発を見た人なら絶対そんな煙のレベルですむことじゃないと簡単に想像できるはずです。ぜひバッテリー自体の根本からの仕様変更を願ってやみません。素人の願いに耳を傾けている余裕はないかもしれませんが、ここはひとつ一度でいいので再考していただけないものでしょうか?
787に関して正確な情報を持ちませんのであくまでも航空機一般に言えることとして書きます。
なぜ時代遅れのバッテリーを使っているかについて・・・
おそらくこれは航空機特有の長い開発期間が原因です。
大体、民間航空機の開発間隔は20〜30年くらいあります。
787の開発が開始されたのは2003年頃だったと思います。
つまり、787のバッテリー周辺が設計された時、まだ安全なリチウムポリマーは開発されていなかった(あるいはまだ市場に出ていなかった)のだと思われます。民間旅客機は人命を預かるがために、実は時代の最先端の技術は採用せず、「枯れた技術」=安全が実績で保障された技術を使います。また、一旦お上から認可された設計はそう簡単には変更できない仕組みになってしまっています。
787で初めて大量に採用されたCFRPも実は軍用機では何十年も使われてきたのはみなさんご存じの通りです。
今回はこれが裏目に出ています。つまり、最先端の製品ほど安全になっていたわけですね。航空機開発のスピードや認可の仕組みがリチウム電池の安全に関する開発スピードに追い付けていないと言うことです。
試験が生ぬるいとのご指摘にもコメントがあるのですが、字数制限のため書ききれませんのでまた別途とします。
以上、憶測が混じってしまって申し訳ありませんが、参考になれば幸いです。